街路樹ラブストーリー
「それ、あたしの!あたしが持つ!」
スーパーから若い親子が出てきた。お母さんと女の子。年の頃は3〜4歳といったところだろうか。
お菓子でも買ってもらったのかな、賑やかにその場を去る親子を見ていると平穏な気持ちになった。
それからは、毎日その親子を目にするようになった。最近引っ越してきたのかもしれない。
女の子は怒られてしまったのだろうか、泣いている日もあれば屈託のない笑顔をしている時もあり、コロコロ変わる表情はいつしかわたしの楽しみになっていた。
やがて小さかった女の子は成長していった。
今日は小学校の入学式だろうか。晴れ着を着た女の子は緊張したような、しかしワクワクが抑えきれないような顔でわたしの前を通り過ぎて行った。
桜のやつも張り切っているようだ。花びらが舞うなか、軽やかな足どりで駅に向かう後ろ姿を見てほほえましく思った。
小学校にあがってからは、友達と一緒に遊んでるところをよく見かけるようになった。
からからと笑う女の子は毎日を賑やかに過ごしているようだ。
中学生になり、女の子はむすっとしていることが増えた。
これが世に言う、思春期だろうか。
少しギクシャクした親子の様子を見かけると、こちらは少しハラハラする。
高校生になり、ぐっと大人びた。
美しく成長した女の子はとげとげしさがなくなり、聡明な雰囲気を漂わせていた。
その頃、街では物騒な事が度々起きていた。
「なんか3丁目でひったくりがあったらしいわよ〜。」
「やあねぇ。この間なんかこのあたりでパンツ一丁でエアガン持った人が政治について熱く語ってたらしいわよ〜〜。」
「こわいわ〜。春の陽気にでもあてられたのかしら……なんて!」
これが、主婦たちの井戸端会議から得た情報だ。
この辺りは街灯がなく、治安も良いとは言えない。少し警戒しているような、足早で帰るあの子を見て今日も無事に帰ってほしい。あの子を安心させてあげたいと考えるようになった。
そんなある日、変化は訪れた。
眩しい。めちゃくちゃ眩しい。
近い、ライトめっちゃ近い。
近い近い、ほんとまじで。
これなに?元気玉?
これ以上、オラに元気を分けないでくりぃ〜〜!
と思った矢先、あの子が前を通り過ぎた。
少し気の抜けた顔。素敵な顔。
…うん。
安心してあの子がこの道を通れるなら、これは我慢のうちに入らない。
道の傍で、君を毎日待つ。
明るすぎるライトが君の顔を照らす。今日はどんな表情をしてるのかなって、いつも楽しみにしている。
終わり
このライト強いなー
絶対、木は眩しがってるでしょと思い
木の気持ちになってみました。